社会福祉法人 渡保育園 子どもたちをまんなかに
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ふくろう園長のひとりごと
『感謝の心』【1】
これは少し前のある朝、目にしたことです。「大助待て」と大ちゃんのお父さんの低いが鋭い声が、園庭のセンダンの樹の下で響いた。
園舎に向かって駆け出そうとしていた大ちゃんは、正門がある運動場の入り口に立ち止まったお父さんの横まで、5・6歩ぴょんぴょんと跳ねるような仕草で引き返してきた。
「大助、よう聞けよ。こないだも言うたろが。お前は今日もこの運動場で遊ぶ。運動場にお世話になる。保育園全部にお世話ばかくる。この門から入る時は“゜今日もよろしくお願いします”ちゅう気持ちで“おはようございます”て言うて運動場さんに挨拶をしてから中にはいっとぞ」それから大チャンは深々と頭を下げて、お父さんは昔の兵隊さんのようなどこか折り目正しい頭の下げ方をして園舎に向かって歩いていった。
夕方5時頃になると、毎日同じ時刻に大ちゃんのお父さんはやってくる。
一礼して正門から運動場に入る。
やがて、保育室のほうから手をつないで運動場を横切ってきた大ちゃんとお父さんは、正門で立ち止まり回れ右をする。
そして朝と同じように大ちゃんは深々と、お父さんはどこか折り目正しく一礼して、また手をつないでぽっぽ階段を降りていく。
その大ちゃんのお父さんの送り迎えの姿が
いつ頃からか見なくなり、代ってお母さんの姿を見るようになった。
朝、お母さんは忙しそうに大ちゃんの手を引っ張るようにして門を入り、夕方はまた大ちゃんの先にたってぽっぽ階段を忙しそうに降りていく姿が見られるようになった。
大ちゃんのあの深々とした礼も、今では見られなくなった。
担任の話では、大ちゃんのお父さんは入院をされたようで、長びきそうだという。

『感謝の心』【2】
昔、僕が小学生だった頃は、朝学校の門で一礼した後、入ってすぐのところに建っている二之宮尊徳さんの像の前で、もう一度帽子をとって礼をしてから教室に向かったものだった。
入学の時教えられたものかどうか覚えていないが、どうもそれは伝統として受け継がれたものだったような気もする。
今の学校ではどうなのだろう。ちょっと気にもなる。
私の保育園では、先生の方から先に挨拶をしなければ“おはようございます”の挨拶は大部分かえってこない。お母さんの中には先生から挨拶の声を掛けているのに無視した感じの無愛想な人もいる。
いつ頃から“明るい挨拶を交わす”という社会の基本になければならないことが、何故今のような状態になったのだろう。悩みのひとつである。
新しい園舎になれば、新しい伝統が生まれないだろうか。
そんな思いもあって新園舎を入ってすぐのところに“小さなお仏壇”を置く場所を作るよう設計士さんに申し入れたのは、最終設計決定の直前だった。
園舎が建ち、入佛式でお寺の住職さんは子どもたちを前にこんな話をしてくれた。
「正面玄関を入ってすぐの、皆さんが毎日必ず通る場所に新しいお仏壇を園長先生が置かれたのは、きっとここが一番仏さまと皆さんが会いやすい場所だからでしょうね。朝夕ここを通る時はお参りしてくださいね」と話された。
私は“親鸞信者”と自分で思っているが、園児たちにお参りを強制する気はない。とは言いながら、新しい伝統を期待する気持ちは強い。
その後私は、注意深く仏壇の前を気にした。
朝は7時に仏壇の灯明のスイッチが入れられ、10時に切られる。
降園がはじまる午後4時半頃、又あかあかと灯明のスイッチが入れられ、7時半に消される。
送迎はわりと祖母のほうが多い。その関係で祖母と孫が一緒に手を合わせている姿を見ることが多い。3ケ月を経て、その数が次第に多くなってきたようだ。
昨日も迎えに来た母親が、さっさと通り過ぎると子どもの方は立ち止まって仏壇に手を合わせ“ありがとうございました”と叫ぶように言って母親の後を追いかける姿が見られた。
どうやら“作戦成功”ではないが、「手を合わせる」「感謝する」という心や伝統が根付くかもしれない。
そんな嬉しい思いのするこの頃である。




                             平成18年9月


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